【書評/レビュー】語り尽くせない南極の自然/工藤栄 著

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語り尽くせない南極の自然 生物学者がみた教科書にない南極の自然と自然

以下、「本書」と言えば上記の本を指す。

著者:工藤栄
出版社:成山堂書店
発行:2025年10月18日初版

「南極」と聞くと皆さんは何をイメージするだろうか?

氷に閉ざされた不毛な大地?
ペンギン?
あるいはタロとジロだろうか?

そのようなイメージは間違いではないが、南極を構成する自然は決して一言で片づけられるようなものではない。

本書は、南極の水辺に形成される生態系を専門として国立極地研究所で研究を行っている著者が、生物学者の視点から見た南極の生態系と自然を概説する一冊である。

南極への道程

本書は、南極にたどり着くまでの過程の紹介から始まる。

砕氷船に乗って荒れ狂う暴風圏を突破し、氷山や海氷が漂う南極海にたどり着く。

そして海氷に繁茂する藻類やそれらに支えられるナンキョクオキアミに触れる。著者は釣りが好きとのことであるから、釣り餌によく使われるナンキョクオキアミを見て南極海生態系の偉大さを感じるようだ。

本書を特徴づける要素のひとつが、毎ページ下部に入る注釈だ。科学を嗜んでいない方でも読みやすいように、専門用語やそれに準ずる単語(例えば「海氷」「氷床」など)には注釈が入っている。

例をひとつ取り上げよう。例えば「氷床」という単語については

氷床(ice sheet)
降り積もった雪が蓄積し圧縮されて広大な陸上を覆うように発達した厚さが数千メートルになる氷。北半球ではグリーンランド(グリーンランド氷床)、南半球では南極大陸上に発達したもの(南極氷床)を氷床と呼ぶ。
-本書004ページより引用

といった具合だ。このような注釈はほぼ毎ページ入っており、わからない専門用語のせいで内容が入らないことを防げるため、本書を理解するハードルを幾分下げている、と思う。

しかし、注釈を見ることで読み進める流れを切りたくないという人には向いていないかもしれない。もっとも、知っている単語なら無視して読み進めればよいので、そこまで問題ではないと思う。

個人的には好きなシステムだ。

南極の生態系

南極にたどり着いたのちは南極に残っていた越冬隊員たちとの出会いを描き、南極生態系の解説に入る。

筆者は南極観測隊を何度も経験している研究者であり、南極を訪れるいち研究者目線の体験や意見がふんだんに盛り込まれているのも、本書の特徴だ。

南極生態系の解説では、主に昭和基地周辺の自然がメインだ。昭和基地は南極の東側にある。これは南極で最も研究が進んでおり、かつ一般人が南極観光で訪れる頻度の高い「南極半島」が南極の西側にあることと比べて正反対だ。

つまり何が言いたいかと言うと、本書で美しい写真と共に解説される南極の自然は、一般人が容易には体験できないものとなっており、とても貴重な情報がまとめられていると言っていい。

具体的には、昭和基地の周辺に生息するアデリーペンギンやユキドリ。彼らの卵やヒナを狙うナンキョクオオトウゾクカモメ。

そして鳥たちの糞という限られた栄養を使って育つコケや地衣類(コケと菌類の共生体)。

南極は、決して雪と氷に閉ざされた不毛の大地ではないことが分かる。

しかしやはり生物の活性は低い。死んだ動物が簡単には分解されないために、アザラシの死体がミイラとなって転がっている。これはぜひ本書を手に取って写真と共に参照されたい。

想像だにしない自然の営みが南極にはあることを否応なく感じる。

南極の湖とコケボウズ

ここまで本書を読み進めた読者であれば、南極を「氷の世界」という一言では到底表せないことを理解しているだろう。だがこれで終わりではない。

南極には「湖」が存在しているのだ。

南極の夏である12月や1月には氷で閉ざされた湖が融解し、液体の水を湛える。

そんな南極の湖は成り立ちによって多様な塩分やpHを持つが、その中でも特筆すべきは「コケボウズ」が生息する湖だ。

一部の湖の湖底には、水棲のコケが絨毯のように繁茂している。

そのコケが場合によっては、湖底でこぶ状に突き出し、50cmもの大きさの塔のような形状に成長しているという。「コケボウズ」と名付けられているこの構造は、世界でも南極の湖底に特徴的なものらしい。

同じく南極の湖底に特徴的な生命体として、バイオマットが挙げられる。バイオマットは藻類などの微生物の集合体が厚みを持ったマット状に成長したもので、これも絨毯のように湖底に繁茂する。

本書では写真はもちろん、掲載のQRコードから南極の湖の様子を動画で確認することができるが、その様子はさながら別の惑星のようで神秘的である。本書を手に取られた皆様は、ぜひ掲載のQRコードから南極の湖底の映像を参照されたい。

本書の著者の工藤氏は南極で長らく湖のコケボウズやバイオマットの調査・研究をされていたとのことで、本書後半の多くの割合はこのような湖の組成に関する概説や、湖底の藻類・微生物に関する研究内容の紹介が占めている。

どれも大変興味深く知識欲をそそられる内容であるが、前半にあるような南極の陸上生態系に関する内容とはやや趣を異にするため、読まれる際には頭に入れておきたい。

本書をおすすめする方

・南極の自然について知りたい方
・極限環境に生息する生物について知りたい方
・南極での研究生活や研究方法について知りたい方
・これから南極に行かれる方の予習として

本書はタイトル通り、一言では語り尽くせない南極の自然について、主に昭和基地周辺の陸上生態系と、湖に形成される特異な微生物環境について、いち研究者目線でその経験と研究内容を解説した一冊である。

南極の自然について、ネットでは得られない貴重な情報がふんだんに含まれている。

また注釈やフルカラーの写真があるゆるところにちりばめられているのでとても読みやすく、科学に造詣が深くない読者でも理解しやすいのも本書の特徴だ。

南極について知りたい方、ぜひお手に取ってみてはいかがだろうか?

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本サイトをご覧頂きありがとうございます。 本サイトは現役大学生のりるとたきの2人で運営しております。 「海」に魅了された2人がみなさまのお役に立てるような記事をお送りできればと試行錯誤の日々です。
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