【ラッコ】霧多布岬で野生のラッコを観察してきた〈マリラバ生物探訪〉

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ラッコ

2026.05.霧多布岬

ラッコ Enhydra lutris
目:食肉目 Carnivora
科:イタチ科 Mustelidae
属:ラッコ属 Enhydra

ラッコは主にはロシアの千島列島からアメリカのカリフォルニア州にかけての北太平洋に生息する海生哺乳類です。分類的にはカワウソに近く、簡単に言うと「海に適応したカワウソ」という表現が近いかもしれません。

ラッコは約100-300万年前に海に進出したのですが、これは海生哺乳類としては最も新しい数字。そのためか、5000万年の歴史を持つ鯨類や2800万年の歴史をもつ鰭脚類(アシカとかアザラシとか)に比べて、ラッコは海生哺乳類界でも最も体が小さい種であるとのことです(三谷ほか、2019)。

また厚い脂肪層で断熱して体温を保つ多くのクジラや鰭脚類とは異なり、ラッコは高密度の毛皮の内側に空気をためることで断熱していることも、特異なポイントかもしれません。

そんなラッコですが、ロシアに不法占拠されている北方領土にも多数が生息しています。そしてそこからたどり着いたと考えられる個体が、北海道・浜中町の霧多布岬で度々目撃されていました。

そして2016年ごろに数頭が定着したことが確認され、そこからは定着個体が繁殖することで安定的に観察されています。

ラッコがいるのは北海道は浜中町の霧多布岬。2026.05.霧多布岬

ラッコは2026年5月時点で10頭程度が生息していることが確認されています。

ラッコは霧多布岬周辺の約8㎞圏内の海域を自由に泳ぎ回っています。NHKのワイルドライフで以前霧多布岬のラッコが放送された際の情報なども参考にすると、下の画像に示したような範囲で暮らしている模様です。

ラッコが生息すると考えられる海域。筆者調べなので間違いはあるかも。

ただ実際にコンスタントに観察できる場所は結構限られており、その日の風向きや天候によっても異なりますが、霧多布岬にある駐車場(奥の方)から降りてすぐの辺りの岬の北側にいることが多い印象です。

下の地図中央に見えている駐車場から湯沸岬灯台までくらいの辺りで、駐車場から降りてすぐの岬の左側ですね。

まあ、ラッコがいる場合はどでかいレンズを備えたカメラや双眼鏡を持った人がたくさんいるので、その人たちが見ている方を見ればすぐに見つかると思います。

ラッコは50mほどの崖の下の海に浮いています。肉眼でも見えますが、しっかり観察するには最低でも400mm以上の望遠レンズを持ったカメラや、8~10倍以上の双眼鏡をおすすめします。撮影や観察の攻略法に関してはまた別記事にまとめようと思います。

崖によって守られていることで人間が簡単に手を出したりちょっかいをかけられない環境なのも、彼らが安定的にここで生息できる理由の一つだと思います。

たわむれるラッコたち。2026.05.霧多布岬

私が霧多布岬を訪れたこの日は赤ちゃんも含めて7、8頭のラッコが観察できました。

バースコートの赤ちゃんを抱えたお母さんラッコ。2026.05.霧多布岬

この前日か前々日くらいに生まれたばかりと思われる赤ちゃんを抱えたお母さんラッコも観察できました。生まれたばかりの赤ちゃんはとても浮力の高いふわふわの「バースコート」に覆われているので溺れずに済みます。

ふわふわでぬいぐるみみたいでかわいいです。

ちなみにこのお母さんラッコは2025年にシャチに襲われて亡くなった「Aお母さん」というラッコの娘の可能性が高いようです。世代交代が続いているんですね。

思い思いに行動する。2026.05.霧多布岬

ラッコたちは思い思いに行動しています。浮かびながら毛づくろいをしたり、寝ていたり、何かを食べていたり…彼らののんびりした、でも生き生きとした生活を覗き見ることができます。

カニを食べるラッコ。2026.05.霧多布岬

この時はたまたまカニを食べている姿を見ることができましたが、道東のラッコはその食事の50%程度を二枚貝に依存しています(三谷ほか、2019;三谷、2021)。カニは10%から15%とのことなので、そこそこレアなシーンを観察できたのかもしれません。

高密度の毛皮で断熱して体温を保っている彼らですが、その断熱は十分ではないらしく、彼らは1日に体重の25%もの高カロリーなエサを食べる必要があります。

また行動時間の30%程度の時間は食事に使っていることから、しばらく観察していればなんかしらを食べているシーンは観察できると思いますよ!

豊かな海藻がラッコを育む。2026.05.霧多布岬

崖の下の海岸に目をやると、とても豊かに海藻が生えているのが観察できました。

実はこの海藻はラッコを育む命のゆりかご。海藻がたくさんあることで、海藻を食べるウニやヒザラガイなどがたくさん生息することが可能なのです。

また海藻は平坦な海底に立体的な隠れ家を提供し、カニや魚類を呼び寄せます。さらに食べているのかは不明ですが、ラッコが海藻にかじりついている姿もよく観察できました。

2026.05.霧多布岬

霧多布岬のラッコではないですが、根室などの道東海域のラッコではホンダワラ類の海藻を体に巻き付けて流されないようにしたうえで休息する様子も観察されています(三谷、2024)。

そしてたくさんの海藻が生える海域はそれだけ栄養が豊富ということ。栄養が豊富な海では植物プランクトンが良く繁殖し、これはラッコの主要なエサ資源である二枚貝を支える糧になります。

極めつけとして、ラッコは海藻を食べてしまうウニを食べるので、ラッコが生息することでその海域は豊かな海藻の森が保たれるということ。このようにラッコは複雑に絡み合う生態系の根幹をなす「キーストーン種」であるのです。

繁殖中のウ。2026.05.霧多布岬
オオセグロカモメ。2026.05.霧多布岬

霧多布岬では多くの海鳥を観察することもできます。

岬の先端の岩山では多くのウやオオセグロカモメが繁殖していました。

カラスに追いかけられるオジロワシ。2026.05.霧多布岬

また霧多布岬周辺にはオジロワシが周年生息しているようで、カラスに追いかけられて逃げる姿を見ることができました。

モビングって1匹でもやるんですね…。オジロワシが本気出せばカラスは余裕で負けると思いますが、なぜやるんでしょうか?

また今回は見ることができませんでしたが、霧多布岬でゴマフアザラシやゼニガタアザラシなどのアザラシ類も観察することができます。霧多布岬は「トッカリ岬」とも言われますが、「トッカリ」とはアザラシのこと。元はアザラシを見られる岬として親しまれていたのかもしれませんね。

釧路空港から1時間とアクセスも悪くないので、ぜひまた行こうと思います。

本記事の参考文献

三谷曜子・北野雄大・鈴木一平(2019)道東沿岸域において再定着しつつあるラッコの摂餌生態の解明、自然保護助成基金助成成果報告書、28、p.116-122

三谷曜子(2021)北海道沿岸におけるラッコの再定着は何をもたらすか:生物多様性保全と持続的利用の両立に向けて、旭硝子財団助成研究成果報告、90、p.1-9

三谷曜子(2024)海中林における高次捕食者,ラッコとヒトは共存できるか:ラッコが沿岸生態系に与える影響、旭硝子財団助成研究成果報告、93、p.1-8

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